【寄稿】使用罪の導入は医療用大麻を合法化するため?大麻取締法改正についての考察/長吉秀夫
大麻取締法改正に向けて、厚労省が動き始めた
2021年1月20日。大麻取締法のあり方を議論する有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の第1回が開催された。
それに先立ち2021年1月13日に、この件について主要メディアが大麻について一斉に報道した。
2021年1月13日 11時11分
若者による大麻の乱用が深刻化する中、厚生労働省は取締りの強化について検討するため、近く有識者会議を立ち上げることを決めました。
現在の法律では大麻を使用すること自体を禁じていないことから、新たに罰則を設けるかどうかなども含めて議論する方針です。(略)
いくつかの報道の中に、このようなものもあった。
2021年1月13日 18時18分
(略)各警察は大麻の所持や栽培の事件捜査の一環として、既に容疑者らの大麻使用の有無を調べる尿検査を導入済みだ。
警察幹部は「検査の正確性は極めて高く、誤認による摘発を招く恐れは非常に低い」と強調。「使用罪の導入が実現すれば、効率的な取り締まりにつなげられる」と議論の行方を注視している。
この「大麻等の薬物対策のあり方検討会」は、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課の主導で行われている。
開催要項をみると、報道のとおり、若年層の大麻使用の急そうや再犯率の増加、大麻ワックスなどの流通拡大への懸念とともに、WHOなどが提唱している大麻の医療用途などへの活用への議論を受けて、今後の日本の薬物対策のあり方を議論するために開催されるとある。
つまり、この会議は、使用罪を導入して若年層の大麻規制を強化することと、医療用大麻の使用を合法化するためのものだということだ。大麻取締法制定後、70年以上を経て初めて、この法律のあり方についての議論が始まったということである。大きな視点からみると、このことは評価に値する。
厳罰化による弊害と「軽犯罪化」「非犯罪化」
僕は、医療用大麻の合法化には賛成である。どのような形で合法化され運用されるかについては詳細な議論が必要ではあるが、方向性としては歓迎する。
しかし、問題なのは使用罪の導入だ。現状のままで使用罪を導入するということは、実質上、大麻取締法を厳罰化するということである。若年層の大麻使用を抑止するために、厳罰化することは効果的なのだろうか。僕はそうは思わない。
さらにいうと、使用罪の導入自体にも反対である。日本の大麻取締法の罰則は、最低でも5年以下懲役刑しかない。大麻の有害性が今まで考えられていたよりも低いことは、2019年のWHOの見解や海外の多くの論文、世界中の使用者たちの実態をみれば明らかである。
大麻には重篤な害はないことは、既に科学的に証明されている事実である。WHOはこの事実をもとに、麻薬を規制する国際条約に矛盾が生じているとして、国連に対し是正勧告を行った。それを受けた国連は、2020年12月に採択をおこなった。
その結果、大麻や大麻樹脂には医療価値があることは認めたが、大麻の有害性については現状のままという結論に達した。つまり、現在の国際条約における大麻規制には科学的な根拠はなく、政治的・経済的な理由によるものだ。
その一方で、先進国をはじめとする各国は、法律と科学との矛盾を埋めるため、刑罰を軽くする「軽犯罪化」や、法律を違反しても犯罪とせずに逮捕しない「非犯罪化」を実施している。社会に与える損害と、それを償う罰の重さのバランスは、同等でなければいけない。
そのバランスが釣り合わないと人権問題に発展する。今、大麻に関する状況が抱えている問題がまさにそれだ。そのため、世界はこのような方法で問題を回避している。
一方我が国は、それらの動きと逆行しているといえる。前述したように、日本の大麻取締法には懲役刑しかない。さらに今回検討されている使用罪が導入されると、より多くのひとたちが懲役という重い刑罰に晒されることになる。
今回の使用罪導入は、若者たちを抑止するためのものだと厚労省はいう。しかし、果たしてそれが抑止につながるのだろうか。さらにいうと、日経新聞の記事にあるように、警察は使用罪導入によって「効率的に検挙できるようになる」と述べている。
科学的に比較的安全だと証明されている大麻に対して、禁固刑しかないということが、果たして正しいのか。そして、使用罪導入によって本当に若年層の使用への抑止になるのか。
薬物政策厳罰化の失敗
世界の薬物政策の厳罰化は、結果的に問題を解決することができなかった。アメリカは、レーガン大統領の時代である1981年に「麻薬との戦争 (War on Drugs)」政策を推進し、中毒治療のための予算を減らす一方で麻薬犯罪者の投獄を推し進めた。
これによって、検挙者数が大幅に増加した。しかし結局は、このような厳罰化政策は成果が得られず、失敗に終わった。アメリカの厳罰政策は、それ以前の1940年代から50年代にも行われた。
その中でも1951年につくられた「ボッグズ法」は、大きな問題をつくりだした。この法律は、他の薬物抑止とともに、若年層の大麻違反を抑止することも視野に入れてつくられた法律である。その規制内容は、初犯などでの執行猶予を一切認めず、一律2年間の服役を命じたものである。
これにより、多数の未成年者が大麻で検挙され投獄された。そしてこれが大きな社会問題へと発展したのだ。これらのことからもわかるように、単に厳罰化して検挙者を増やすことは、薬物問題を根本的に解決する方法ではなく、むしろ逆効果なのである。
根本問題を解消する道筋としての「ハームリダクション」
先進国をはじめとする諸外国では、薬物使用に対して厳罰化するのではなく、使用者を中毒患者として治療することこそが、根本的な解決に向かうという考え方にシフトしている。
この考え方を「ハームリダクション」という。薬物依存者を刑務所に入れるのではなく。治療プログラムを受けさせるなどで社会復帰を促すなどの方法だ。
依存性がカフェイン程度である大麻はドラッグではなくハーブだと僕は認識しているが、厚労省や警察による大麻取締法の運用をみると、ヘロインや覚せい剤同様に大麻を「凶悪なドラッグ」として取り締っている。
大麻は有害なのか?
大麻による本当の害は「逮捕され、その後の人生を破壊してしまう」というひとことに尽きる。そして日本では、大麻で逮捕されると懲役刑しか選択肢がない。しかし、大麻を厳しく取り締まる科学的な根拠は、存在していないのだ。
現在の取締りの理由は、政治的・経済的なことによるものだと僕はいった。大麻の害は、人為的に作られたものだといってもいいだろう。ということは、大麻逮捕者に対するハームリダクションは薬害による治療ではなく、刑罰を軽くするあるいは逮捕しないという、「軽犯罪化」や「非犯罪化」ということになる。
使用罪の導入によって、大麻取締法の性質が変わる
僕は、大麻取締法への使用罪の導入に反対である。そもそもなぜこの法律に使用罪がないのか。それは、大麻取締法成立の歴史にある。日本でこの法律ができた背景には、戦後の占領軍であるGHQの命令によることは、広く知られている。
その時点でこの法律は、大麻生産を免許制にし、生産量を調整することが目的だった。当時、大麻農業従事者や一般国民にも大麻使用による害は存在しなかった。そのため、そもそも大麻の使用を規制する必要はなかったのである。
そのかわりに日本では、大麻取締法第4条で、医療用の使用を規制した。厚労省は現在、「大麻に使用罪があるのは、大麻生産者が大麻畑で作業する際に陶酔成分を吸いこんでしまう恐れがあるからだ」と説明している。
しかし、そのような資料を僕は見たことがない。大麻取締法に使用罪を導入するということは、今までと根本的に法律の性質が変わるということだ。今までは大麻草そのものを規制してきたが、使用罪を導入することで、この法律は大麻に含まれるTHCを規制するものに変わる。
つまり「大麻THC取締法」だ。であるならば、THCが人体にどう影響があり、それによってどのように社会に影響を及ぼすのかということを明確な数値で示す必要がある。例えば自動車のスピード違反では、速度によって罰則が決められている。飲酒運転でのアルコール濃度についても同様だ。
もう一度いうが、僕は使用罪の導入は反対である。大麻取締法は、非犯罪化すべきである。しかし、もしも使用罪が導入されるのであれば、規制するTHC数値を明確にし、禁固刑以前の罰金刑などを設けた軽犯罪化を同時に行うべきである。
さらにいうと、個人の栽培や使用については、交通違反同様に刑事責任を伴う「罰金」ではなく行政罰である「反則金」として処理すべきだ。そうすることにより、違反者に前科は付かず、その後の人生を再出発することができる。厚生労働省は、今回の使用罪導入は、若年層の大麻違反者を抑止する目的によるといっている。
しかし、大麻取締法の厳罰化は、決して抑止力にはならない。むしろ逆効果である。それは、世界の動きや歴史を鑑みれば明らかだ。
大麻で豊かになるために、正々堂々と議論する
僕は、この議論に対して闇雲に反対するつもりはない。そうではなく、反対するのであれば、なぜ反対なのか?どうすればいいのか?ということを僕たちも考え、提案していく必要がある。付け加えるならば、医療用大麻をどのようなかたちで合法化していくのかということについても注力する必要がある。
医療用大麻の合法化は、薬品会社などに大きな利益と利権をもたらす。それによって、公衆衛生に大きな恩恵をもたらすはずの医療用大麻が、その力を発揮することができなくなる懸念もある。
産業用大麻(ヘンプ)の未来についても同時に議論する必要があるだろう。WHOは、「CBDを主に含むTHC0,2%以下の製剤は、国際規制物質の対象外とする」としている。これはEUの産業用大麻のTHCの基準と同じ数値だ。産業用大麻は、EUではTHC0,2%以下、アメリカは0,3%以下、オーストラリアでは1%以下と決められており、それらの品種については規制の対象外となっている。
医療や産業についても、まだ伝えるべきことがたくさんあるが、それについてはまた別の機会に譲りたい。
大麻は健康にも環境にも寄与する、有益な植物である。大麻問題を解決するためには、従来の日本の麻薬政策の姿勢から脱却し、広い視野で柔軟な議論することが大切である。今回の有識者会議が、僕たち一般市民や政治家や他の行政機関を巻き込みながら、大麻のある豊かな社会の実現を目指す第一歩になることを願っている。
【プロフィール】
長吉秀夫
1961年12月26日 東京都生まれ 明治大学卒業
1980年から舞台制作者として活動を始め、1987年に制作株式会社ヘッドロックを設立。舞台制作、出版プロデュース、音楽制作、作家活動を開始。
大学在学中に、舞台制作者として、内外の「民俗音楽」「舞踊」や「ロック」と出会い、全国津々浦々をツアーする日々が続く傍ら、ジャマイカやインド、ニューヨークなどの国々を訪れながら、「大麻」や「ドラッグ」「精神世界」「ストリート・カルチャー」などを中心にした執筆を行い、現在はフリーとして活動中。大麻解放運動も行なっており、全国で講演会やイベントを開催。2020年より、ZINE「TAIMA」を発行している。
長吉秀夫さんが出版した「なぜ大麻で逮捕するのですか?」はこちら
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Kohei
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