成田賢壱

「医療大麻合法化のために戦う、ひとりの男の物語」

4月某日、新宿区議選挙の街頭演説にて、訝しげに眉を顰める通行人をよそに異質な熱気を放つ候補者がいた。

「東京に医療大麻特区を」

医療大麻合法化のために新宿区議選に立候補した成田賢壱氏は、一部では名の知れた存在だ。指定難病であるクローン病を患う彼が、欧米の医療現場で使われている大麻の持つ可能性を訴え、医療大麻合法化のための活動を始めたのは、もう10年以上前の事になる。今回の都議選は惜敗したものの、全国から多くの支持者の声援を集め、代り映えのしない都議選に、一石を投じたのも事実だ。

そんな彼の活動と経歴には、時として奇妙に見えつつも、一貫した筋があり説得力がある。2008年、治療目的として米国医師の推薦状を片手に大麻を吸引する現場を動画配信し、自ら裁判所や厚生労働省に出向き、その正当性を主張した。その後、彼は執行猶予を甘受するのではなく、法廷で争う道を選ぶ事となる。

持病のためとはいえ、並大抵の覚悟で出来る事ではない。「医療大麻合法化の日本の旗手とは、一体、どんな人物なのだろう。」某日、半ば緊張して待っていた我々の前に現れた彼は、これまでの活動の経緯とこれからの道筋を理路整然と語ってくれた。その口調は、穏和で物腰柔らかく、それでいて一直線に人の心を打ち揺さぶる清冽さがあった。

「自分のこの病気も何かの縁だと思っていますので」

奇をてらうわけでもなく、自身の境遇を嘆ずるわけでもなく、そして国や司法に他責するわけでもない。等身大で戦う透徹したその姿に、人々は心を動かされるのだろう。

まだまだ、世間との温度差は大きい。全国レベルで大麻を合法化したカナダから、多数の医療大麻関連のユニコーンが生まれたり、世界的なVCが続々と医療大麻に参入したりと、社会的インパクトを増す医療大麻だが、多くの日本人にとっては未だに大きな関心事とは言えない。日々、医学的エビデンスが蓄積されようとも、過大評価も過小評価もされがちなこの植物を見る人々の目は、数十年前から、さして変わってないのかもしれない。

それでも医療大麻合法化をめぐる彼の物語からは、様々な社会の矛盾が見えてくる。それは、無遠慮に肥大化し続ける医療費の話であるかもしれないし、特定の大企業の利権とロビーがもたらした”隔絶された民主主義”の話かもしれない。

そう遠くない将来、日本でもエビデンスベースで医療大麻の議論が行われるようになり、医療大麻の持つ社会的意義が正当に評価される日が来るとして、人々は医療大麻に“賛成する人のほとんどいない、大切な真実”を見つける事になるだろう。あの日、成田賢壱の見た景色と共に。

「医療大麻合法化のために戦う、ひとりの男の物語

大麻

実話ナックルズの漫画にも書いてあるのですが、背景として東南アジアを旅行中に吸っていた時期があります。その後、2003年に帰国した翌年にクローン病と宣告されました。

クローン病は原因不明の炎症性腸疾患で、根治治療の方法が無く対処が難しい為に難病指定されている疾病なのですが、何か治療法はないものかと、自分でクローン病に関して調べてみるようになったのです。

日本語では情報量が少なかったので、英語でも調べていくと、カナダの ミッシェル・レイニーさんというクローン病の患者さんのサイトにたどり着きました。

ミッシェルさんは、クローン病の治療としての医療大麻について言及していたのです。その後、調べて行くうちに大麻がクローン病に対して有効だという事が分かったので、治療目的で大麻を吸うようになりました。

実際にアメリカで合法的に大麻を充分な量使っている時は健常者と変わらない生活をしていました。症状自体は19歳ごろから始まっていたのですがアジア旅行中は体調が良かったことを考えると本能的に気づいていたのかも知れません。

当時知り合ったカリフォルニア出身の友人が医療大麻カードを持っていた事もあって「医療大麻が非合法な日本で、この持病とどう向き合っていくか、どう対処していくか?」という事を色々と考えました。

ただ、一市民が法律を変える事など難しいだろうと半ば諦めていたので、表立って大麻の事を話さなかった時期もあります。しかし、2008年の11月に大麻所持で逮捕された事がキッカケで、やるのだったら医療大麻合法化のために法廷で正々堂々と争おうと決意しました。

僕は自分のこの病気も何かの縁だと考えています。海外では、実際に医療大麻が治療に使われているので、これを機に世の中変わるキッカケとなればと思い立ったのです。

保釈されて裁判が始まると東京地裁ではカリフォルニアの専門医、ジェフェリー・ヘルゲンラザー先生に法廷で証言して貰う筈だったのですが、検察の反対で却下され代わりに意見書を書いてもらい証拠採用されたものの「日本の医師は認めていない」として執行猶予付きの有罪判決でした。

 

医師による推薦書
(画像:ヘルゲンラザー医師の意見書)

後にこれを不服として高裁に行くわけですが、担当の弁護士に確認したところ「高裁で争っている間は、確定して有罪にはなっていない状態(推定無罪)なので海外渡航も可能」とのことで、その間にカリフォリニアに行き、ジェフ先生の元を訪問して実際に医療大麻の推薦状も書いてもらい、現地で合法的に大麻を購入したり使用しながら映像配信を開始しました。

厚生労働省の麻薬対策課という部署が大麻取締法の所轄なのですが「全てLive配信(今は無くなってしまったUstreamを主に使用)で医療大麻を使用しながら国際電話で担当者の科学的な矛盾を突き詰めたり、法改正を訴えるという試み」は2010年当時新しく同時視聴者数も数千人、各アーカイブ再生回数も数十万単位でした。モーリー・ロバートソンさんとかと知り合ったのもその頃です。

大麻取締法の第四条には“医師が施用する事も、医師の施用を受ける事も禁止する”という部分があります。これは憲法25条で保障されている生存権を侵害するので、98条の最高法規性からいうと「大麻取締法自体そもそも効力を有しない法律である。」との主張を元にみんなにも考えてもらおうというスタンスで引き続き裁判や配信も継続しましたが、裁判所のスタンスは変わらず。最高裁への上告は棄却されてしまいました。やれる事は可能な限りやってみましたが、個人で出来る事には限界がありました。

‐活動をする上でどのような反響がありましたか

渋谷

医療大麻に限らず、大麻業界には派閥のようなものがありますし、足の引っ張り合いみたいなものがあるのも事実です。実際に『ポッと出の若造にオイシイところを持ってかれてたまるか』と言われた事もあります。

どの業界にも自分達が第一人者であると主張したい人達はいますよね。また、”医療大麻を必要としている患者”というレッテルで都合よく政治的に利用しようとする人達がいるのも事実です。

私としては、そういった内政的な話よりも結果が出てくれればよいと考えていたので、そういった人達からすると、面白くないと思われていたのかも知れません。

一方で、発信を続けて行くと応援してくれる人達にも多く出会う事が出来ました。また、ベイポライザー(医療大麻用の気化吸引器具)のボルケーノで有名なSTORZ&BICKEL社からサポートしていただいた事もあります。

クローン病のような炎症性腸疾患の患者は腸内にCB2受容体が多く発現する為、精神作用が出にくいことも一因ですが、配信中に大量に使用する様子を見て「あなたにちょうどいいサイズのモノを用意しましょう」と吸引量の大きいスーパーロング(3m)のベイポライザーバッグ(通常は30cm)を頂いたりもしました。

 

-一般の人達の関心は高まっているのでしょうか。

歩く人々

 

当時のUstreamというプラットフォームでの配信は、残念ながら狙っていたほどは一般社会レベルでは話題にはなりませんでした。当時はユーチューバーという言葉もありませんでした。10年早かったのかも知れません…(苦笑)。

開始当初は、Ustream社もシリコンバレー発の企業という事で僕の配信アカウントは保護リスト(嫌がらせの通報を受けてもロックしないシステム)に入れて頂いていたのですが、ソフトバンクの孫正義氏からの出資を受けて拡大後以降のタイミングで急遽、方向転換し「以前はOKでしたが社の方針で配信コンテンツとして大麻使用は認めないことになりました」としてアーカイブも全て削除されてしまいました。

まだまだ「ガラケーが主流の時代」で、今ほど個人が発信する事が一般的ではなかったので「そもそもその配信自体知らなかった」という人も多いかと思います。しかし、当時アンテナを張っていた感度の高い人達が今度は発信する側に回って行ったり「実はあの時、見ていました。」と声を掛けて貰うことも結構あって最近は、YoutubeやSNS等個人レベルで大麻や薬物政策の問題点について発信する人もかなり増えてきました。

テクノロジーの普及や理解が進んだのだと思います。また、高樹沙耶さんの件で日本社会全体でも「医療大麻」という概念の認知度が一気に高まったのかなと感じています。それまでは大麻に関して口にだすのも憚られる風潮がありましたが、最近は、議論が出来るような土壌が出来てきたという印象です。

-医療大麻合法化は社会にどのような影響を与えるのでしょうか。

成田賢壱

日本にいる間は、私はクローン病に対してヒュミラという免疫抑制剤を使っています。ヒュミラは世界で最も売れた薬として知られており、その世界売上は 2018年報告で約20億ドル(2.2兆円) に上ります。

クローン病は特定疾患に認定されているので、私が直接、薬価を支払うわけではないのですが、このヒュミラは製薬会社