正高先生

「日本人が、医療大麻の真の価値を見出す日」

 

先進国で次々と合法化されている医療大麻ですが、日本では、医療大麻の使用のみならず、研究すら許可されていないのが現状です。また、日本では大麻に関する正しい情報が不足しているために、医療大麻に関して科学的なエビデンスに基づいた議論が行われる事も多くはありません。

 

正高佑志氏は、内科医として勤務する傍ら、「医療大麻に関する科学的エビデンスに基づいた正しい知識を日本に」という理念を元にGreen Zone Japanを設立し、医療大麻の啓蒙活動を続けてきました。今回は、そんな正高氏に医学的な見地から医療大麻の可能性について語って頂きました。

 

大麻草

 

‐正高先生が医療大麻に興味を持つようになった経緯を教えてください。

もともと大麻草の存在は知ってはいたのですが、医療大麻に関して興味を持つようになったのは、ナショナルジオグラフィックという雑誌の医療大麻特集を読んだ事がきっかけです。

記事の中では、小児の難治性てんかんに対して医療大麻が著効した症例について取り上げられていました。同じ時期に、日本でも末期がん患者の山本正光さんが大麻取締法違反で逮捕・起訴されたことを知りました。

山本さんは、肝臓がんの治療目的に大麻を使用しており、「治療目的での大麻使用を禁じる事は生存権の侵害にあたる」と無罪を訴えていました。

山本さんは公判中に他界されてしまったのですが、その後、山本さんをサポートしていたNPO団体の方々と交流を持つようになりました。

彼らが日本の患者さんをアメリカに連れて行き医療大麻を試用するというメディカルツーリズムを企画し、私はオブザーバーとして渡米に同行することになりました。そこで医療大麻がどのように扱われているのかといった事を視察して来たのですが、

その際、Jeffrey Hergenrather先生という医療大麻専門医との出会いがありました。Jeffrey先生は1996年から医療大麻を処方しており、クリニックには3000名程のカルテが保管されていました。

その中には、転移悪性黒色腫(メラノーマ)が脳に転移してから数年以上、医療大麻だけで今日まで元気にしているといった症例もありました。また日本からのメディカルツーリズムに参加した患者さんの中に、痙性対麻痺の患者さんがいました。

その方は足が突っ張って歩きにくく、歩いた日の夜は足の筋肉がけいれんし、痛みで眠れないといった訴えがあったのですが、大麻を使用すると、筋肉が弛緩し筋痙攣も完全に治まっていました。

その時の視察において、アメリカで実際にみた医療大麻の現場と、日本での大麻に関する報道姿勢の格差を強く実感しました。Jeffrey先生にも「これからの時代、日本にも医療大麻に精通する医師が一人くらいいても良いのでは」と言われ、今日に至ります。

渡米後に感じた、医療大麻の情報格差

渋谷のスクランブル交差点

-正高先生の設立したGreen Zone Japanについて教えてください。

「医療大麻に関する、科学的エビデンスに基づいた正しい知識を日本に」という理念をもとに、2017年の7月に、私と三木直子を中心に一般社団法人Green Zone Japanを立ち上げました。

三木は日本とシアトルを行き来しながら、翻訳や通訳を本業としているのですが、「マリファナは何故非合法なのか?(築地書館)」、「大麻草でがんは治せるか?: 植物性・内因性カンナビノイドの抗がん作用――最先端の研究と臨床例(OfficeMiki)」といった医療大麻に関する書籍の翻訳を手がけています。

そのおかげもあり、海外の医療従事者や専門家と友好な関係を維持しています。彼女も日本と海外との情報格差を強く感じており、お互いの強みを掛け合わせれば活動の幅が広がるのでは、という考えから法人設立に至りました。

Green Zone Japanでは活動の一環として毎年、医療大麻に関する第一人者の招聘を行っているのですが、2017年には、カンナビノイド研究の世界的権威であるEthan・Russo博士を招聘して、東京大学や国立がんセンターで講演を開催して頂きました。

日本の医療現場では医師の持つ裁量や影響力が相対的に大きいので、医療従事者を対象とした活動に、特に注力しています。

 

医療大麻の可能性

研究をしている人

-医学的な見地から医療大麻の可能性について教えて頂けますか?

昨年、大麻草由来のCBD成分を含むEpidiolexという製品がFDAの認可を受け、ついにてんかんに対する処方薬として使われ始めていますね。

一説には、医療大麻が効く疾患や症状は250にも上ると言われています。こんな事を言うと怪しい健康食品の営業みたいに聞こえるかも知れませんが笑、これには医学的な裏付けがあります。

人間の体の中には、エンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)という神経伝達物質が存在しています。エンドカンナビノイドの受容体は、神経系、消化管、皮膚など、様々な組織に発現しており、身体の恒常性(ホメオスタシス)の維持に寄与しているとされています。

そのため、エンドカンナビノイドのバランスが乱れると、様々な身体症状が現れるのではないかと考えられています。代表的な例では、片頭痛、過敏性腸症候群、線維筋痛症などが挙げられます。臨床的にもこれらは合併する事が非常に多いのです。他にも、PTSDとの関係性も疑われています。

エンドカンナビノイドは、大麻に含まれるカンナビノイドに類似する化学構造を持っており医療大麻はエンドカンナビノイドシステムに作用しますので、医療大麻の研究とエンドカンナビノイドの研究はコインの裏表の関係にあります。

ただ、エンドカンナビノイドは、その存在自体は証明されているものの、体内で作られると数秒で代謝分解されるので、測定しづらいのです。エンドカンナビノイドに限った話ではありませんが、定量する事が難しいものは研究が進みづらいという側面があります。

 

-日本では茎から抽出したCBD製品のみが合法ですが?

大麻取締法があるので、日本では茎から抽出したCBD製品のみが流通しています。しかし、CBDが単体で作用しているのではなく、他のカンナビノイドやテロペノイドなどの成分が全体として協調し作用していると考えられています(アントラージュ効果)。

そのため、CBD以外の成分も重要であり、様々な成分を含有するフルスペクトラム製剤の方が好ましいのではないか、という考えが主流です。

‐疼痛管理に対しても今後、医療大麻は使われていくのでしょうか?

WHOは、麻薬に関する単一条約と向精神薬に関する条約の見直しを行っており、THCに関しても弱オピオイドより安全なカテゴリーに再編される可能性もあります。欧米諸国では日本にくらべて、疼痛コントロールを目的としたオピオイド製剤の使用量が多いので、オピオイドの過剰摂取や依存などのオピオイドクライシスが社会問題となっています。

大麻はオピオイドと併用する事で、オピオイド製剤の投与量を減らせるという効果も期待されています。また現状、神経痛に対しては治療の選択肢が限られています。神経痛は医療大麻の研究が多く行われており、効果が期待される領域です。

 

医療大麻にも、エビデンスに基づいた議論を

研究

 

‐医学界での反響について教えてください。

私が同門の神経内科200人にアンケートをとると、半数以上の医師が「医療大麻の研究を許可するべき」、「医療大麻で他に代用が出来ない場合に限って使用を許可するべき」と答えています。一方で、「他の薬で代用できるので必要ないと思います」と否定的な先生もいますし、「モルヒネよりも切れの悪い鎮痛薬」くらいの認識しかない先生もいます。

そのような先生に、難治性てんかんに対する医療大麻のエビデンスについて聞いてみると、全く知らなかったり、そもそも医療大麻の知識がほとんどなかったりします。十分な知識がないままに、医療大麻の危険性を過大評価したり、医療大麻の有用性を過小評価する先生が多いのも事実です。